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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)3621号 判決 1983年9月26日

原告

加藤秀之

ほか二名

被告

有限会社遠山自動車整備工場

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して原告加藤秀之に対し金八、五七一万三、四一一円及び内金八、一七一万三、四一一円に対する昭和五二年九月二八日から、内金四〇〇万円に対する昭和五七年四月二七日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは連帯して原告加藤龍司、同加藤照子のそれぞれに対し各金二五五万円及びこれに対する昭和五二年九月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告加藤秀之に対し金一億一、六五三万四、〇三一円及び内金一億〇、六五三万四、〇三一円に対する昭和五二年九月二八日から、内金一、〇〇〇万円に対する昭和五七年四月二七日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは連帯して原告加藤龍司及び同加藤照子のそれぞれに対し各金五〇〇万円及びこれに対する昭和五二年九月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五二年九月二八日午後七時四五分ころ

(二) 場所 神奈川県横浜市瀬谷区瀬谷町六、一〇八番地先路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(足立五六ひ四六六七号)

(四) 運転者 被告松本

(五) 態様 原告秀之が友人二名とともに、本件事故現場付近の路上をランニング中、後方から同一方向に時速約八〇キロメートルで走行してきた加害車両に三人ともはねとばされ、うち一人は即死し、原告秀之は加害車両にはねあげられ、数十メートル先の路上に落下させられた。

2  原告秀之の傷害の部位、程度

原告秀之(昭和三八年二月五日生)は、本件事故により脳挫傷、急性硬膜下血腫、頭がい(骨)底骨折等の傷害を受け、昭和五二年九月二八日以来北里大学病院において入院治療継続中であるが、昭和五五年七月一七日症状固定し、重度意識障害、四肢完全麻痺、外来刺激に対する反応を認めない、いわゆる植物人間であるとの後遺障害診断を受け、昭和五六年二月二三日自賠責保険において自賠法施行令別表後遺障害等級一級三号の認定を受けた。

3  被告らの責任原因

(一) 被告会社は、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任がある。

(二) 被告松本は、加害車両を運転し、制限速度時速三〇キロメートルの道路を時速八〇キロメートルで走行したうえ、前方を注視して道路前方左側をランニング中の原告秀之らを発見し、的確なハンドル操作により原告秀之らと接触しないように走行する注意義務があつたのに、これを怠り、漫然と走行した過失により原告秀之らの発見が遅れ、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条の責任がある。

4  損害

(一) 治療費 金一、二三二万六、九八四円

右は、原告秀之の昭和五二年九月二九日から昭和五八年三月一〇日までの北里大学病院における入院治療費の既払分の合計額である。

(二) 付添費 金一、〇一四万五、〇〇〇円

原告秀之の症状は、事故以来常に重篤でり、常時付添人の看護を必要としたところ、原告龍司、同照子は、昭和五二年九月二八日から毎日数時間ずつ交代で付添に当つており、しかも二人とも多額の交通費(殊に、原告龍司は、仕事先からタクシーで急いでかけつけることが多かつた。)を使つて毎日通院しているのであるから、付添費は近親者二人分として一日金五、〇〇〇円を下ることはなく、したがつて、昭和五二年九月二八日から昭和五八年四月一八日まで二、〇二九日分として合計金一、〇一四万五、〇〇〇円の損害を受けた。

(三) 入院雑費 金二〇二万九、〇〇〇円

右は、原告秀之の入院一日当り金一、〇〇〇円の割合で右入院期間二、〇二九日分の入院雑費の合計額である。

(四) 将来の付添看護料等 金八、二九九万〇、五二六円

原告秀之は、後遺障害等級一級の超重症のいわゆる植物人間となり、終生現在までのような入院治療を続けなければならない。

原告秀之の余命を五五年とし、次のとおり一日当り金一万二、一九四円ずつの費用を要するから、その合計額は金八、二九九万〇、五二六円となる。

(1) 治療費 金六、一九四円

右は、昭和五二年九月二九日から昭和五八年三月一〇日までの一、九九〇日間に支払つた治療費合計金一、二三二万六、九八四円の一日当りの平均額である。

(2) 入院雑費 金一、〇〇〇円

(3) 付添看護料 金五、〇〇〇円

合計 金一万二、一九四円

12,194円×365.25日×18.6334(55年間の新ライプニツツ係数)=82,990,526円

(五) 逸失利益 金五、四三一万〇、二四六円

原告秀之は、前記後遺症のため労働能力を一〇〇パーセント喪失したから、賃金センサス男子労働者学歴計の年収金三六三万三、四〇〇円を基礎に算定すると、その逸失利益は金五、四三一万〇二四六円となる。

3,633,400円×100/100×14.9475=54,310,246円

(六) 慰謝料

(1) 原告秀之分金二、〇〇〇万円

(2) 原告龍司分金五〇〇万円

(3) 原告照子分金五〇〇万円

原告龍司、同照子は、唯一の子である原告秀之の受傷と後遺症により原告秀之の生命を侵害された場合に勝るとも劣らない精神的苦痛を受けており、固有の慰謝料請求権を有する。

(七) 弁護士費用 金一、〇〇〇万円

原告秀之の弁護士費用としては、金一、〇〇〇万円を相当とする。

(八) 損害のてん補

原告秀之は、自賠責保険から金一、六〇〇万円(傷害分金一〇〇万円、後遺障害分金一、五〇〇万円)、任意保険から金九七四万五、一三二円及び被告松本から金一〇万円の合計金二、五八四万五、一三二円の損害のてん補を受けているので、前記損害額金一億九、一八〇万一、七五六円からこれを控除すると、残損害額は金一億六、五九五万六、六二四円となる。

5  よつて、原告秀之は被告らに対し、右残損害額の内金一億一、六五三万四、〇三一円及び内金一億〇、六五三万四、〇三一円に対する本件事故発生日である昭和五二年九月二八日から、内金一、〇〇〇万円(弁護士費用部分)に対する本訴状送達の後である昭和五七年四月二七日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告龍司、同照子はそれぞれ被告らに対し、各金五〇〇万円及びこれに対する本件事故発生日である昭和五二年九月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告会社)

1 請求原因1(一)ないし(四)の事実は認める。同1(五)の事実中、加害車両の速度と原告秀之が数十メートル先の路上に落下させられたとある部分は不知、その余は認める。

2 同2の事実は不知。

3 同3(一)の事実中、被告会社が加害車両の所有者であることは認めるが、その余は争う。

被告会社は、加害車両をもつぱら会社の業務のために使用し、修理を依頼した顧客に対しサービスとして代車提供することはなかつたのであるが、本件では、被告松本がたまたま是非車を貸してくれというので、親切心から車を貸与したものであり、少くとも被告会社に運行利益は存しなかつたから、被告会社の運行供用者責任はない。

4 同4(一)の事実は認める。同4(二)は争う。原告秀之の入院した病院は完全看護であり、両親の付添を要することはない。同4(三)の事実は不知。同4(四)は争う。原告秀之の医療費については、現在神奈川県若しくは横浜市から全面的に支給されている。同4(五)ないし(七)の事実は不知。同4(八)の事実中、自賠責保険及び任意保険から主張の金額が支払われていることは認める。

(被告松本)

1 請求原因1(一)ないし(四)の事実は認める。同1(五)の事実中、原告秀之が加害車両にはねとばされたとの点は認め、その余は争う。

2 同2の事実は不知。

3 同3(二)の主張は争う。被告松本には過失はない。

4 同4(一)の事実は認める。同4(二)は争う。付添費としては、一日金二、五〇〇円を相当とする。同4(三)は争う。入院雑費としては、一日金五〇〇円を相当とする。同4(四)は争う。原告秀之のようないわゆる植物人間といわれる重症者に対しては、神奈川県の補助制度により、治療費の負担はなくなつている。同4(五)ないし(七)の事実は不知。同4(八)の事実中、損害のてん補については認める。

三  抗弁

(被告会社)

1 本件事故現場は、米軍基地内を走る幅員五・二メートルの道路であり、付近に人家はなく、また全く照明設備がないため、夜間は暗く、人通りが殆んどない状況であつた。

このような道路を、原告秀之は、夜間友人二名とともに、道路の中央近くまで広がつてマラソンの練習をしていたものであり、一方、被告松本は、時速四〇キロメートルで走行中、前車が急に進路を右寄りに変えたので、自車も続いて右にハンドルを切つたものの、対向車を認めたため、もとの進路に戻ろうとしたところ、進路前方を塞ぐような格好で横に広がつていた原告秀之らに衝突してしまつたのである。

したがつて、原告秀之にも本件事故発生について重大な過失があり、損害額については、かなりの部分が過失相殺されるべきである。

2 弁済の抗弁については、被告松本の後記主張をすべて援用する。

(被告松本)

1 仮に、本件事故発生について被告松本に過失があるとしても、本件事故状況は、被告会社の主張するとおりであるから、原告秀之の過失割合は大きく、当然過失相殺されるべきである。

2 被告松本は、加害車両の保険から支払われたもののほかに、次のとおり損害のてん補として自己負担で支払をしている。

(一) 昭和五三年五月二日金八〇万円

(二) 昭和五三年一一月末日ころ金二〇万円

(三) 昭和五六年一二月七日金一〇万円

四  抗弁に対する認否

1  被告ら両名の過失相殺の主張についてはいずれも争う。

2  被告松本の損害のてん補の主張のうち、(一)の事実は争い、(二)の事実は否認し、(三)の事実は認める。ただし、(三)の金一〇万円は、原告秀之が既に損害のてん補として控除している金一〇万円と一致するものである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(一)ないし(四)の事実は、当事者間に争いがない。

本件事故の態様についてみるに、原告秀之が加害車両にはねとばされたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二ないし第八号証、第一〇号証によれば、本件事故現場は、通称海軍道路と呼ばれる歩車道の区別のない、アスフアルト舗装された全幅員約五・二メートルの平坦な直線道路であり、道路中央部にセンターラインが引かれ、最高速度は毎時三〇キロメートルに制限されていること、付近に人家はなく、また照明設備が設けられていなかつたため、夜間は暗く見通しの悪い状態であり、夜間歩行者の人通りは殆んどなかつたこと、被告松本は、時速約四〇キロメートルで加害車両を運転し、約一五メートルの車間距離をおいて前車(普通乗用自動車)に追従していたところ、事故現場付近で前車が進路を急に右に変えたのを認め、前車に続いて自車のハンドルを右に切つたものの、対向車両に気付いたため、進路前方道路左側部分を注視しないまま漫然従前の速度で左側にハンドルを戻したこと、折から、原告秀之は、友人二名とともに、マラソン練習のため、事故現場付近を通行中であり、片側約二・七メートルの幅員の中央寄り(左側端から約一・八メートル)を歩行していたこと、被告松本は、右のとおり左側に進路を戻したが、前方を同方向に向けて歩行していた原告秀之らをその手前約五・五メートルに接近するまで気付かず、急停止の措置も間に合わずに自車前部を原告秀之らに衝突させたうえ、原告秀之をボンネツトにはね上げ、約四二・八メートル先の路上に落下させたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  右事実によれば、被告松本は、前車が進路を急に右に変えたのを認めたのであるから、このような場合、前車の前方に歩行者等が存在することを予想し、進路の前方を注視することはもちろん、更には減速するなどして歩行者等の早期発見に努め、歩行者等がいればその手前で確実に停止し、またはそれと十分な間隔を保つてその側方を通過し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、漫然と走行を続けた結果、本件事故を発生させたものであるから、被告松本に民法七〇九条の不法行為責任があることは明らかである。

被告らは、原告秀之にも過失がある旨主張するので、判断するに、たしかに、前記認定の道路状況のもとで、夜間道路中央部近くまで広がつて通行していた原告秀之の方にも、本件事故発生の一因をなす過失があつたといわざるを得ないのであり、前記認定の事実、その他諸般の事情を考慮すると、本件においては、被害者の過失として、後記損害額を算定するにあたり、一五パーセントの過失相殺をするのを相当と認める。

三  本件加害車両が被告会社の所有であることは、当事者間に争いがないところ、被告会社は、被告松本に頼まれ親切心から車を貸与したのであるから、被告会社の運行供用者責任はない旨主張する。

しかしながら、被告会社の右主張自体からして、加害車両の所有者である被告会社の運行供用者責任を免れさせるに足りるものではなく、成立に争いのない甲第四、第六号証、被告会社代表者尋問の結果及び被告松本本人尋問の結果によれば、被告会社は、自動車の修理を依頼する顧客である被告松本に、修理期間中の代車として加害車両を提供したことが認められるのであつて、被告会社が自賠法三条の運行供用者責任を負うことは明らかである。

四  原告秀之の傷害の部位・程度について判断するに、成立に争いのない甲第九、第一一、第一二号証、第一八ないし第二〇号証、第二六号証及び原告龍司本人尋問の結果によれば、請求原因2の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

五  そこで、原告らの損害について判断する。

1  治療費

請求原因4(一)のとおり治療費金一、二三二万六、九八四円を要したことは、当事者間に争いがない。

2  付添費

前記四認定の原告秀之の傷害の部位・程度に、原告龍司本人尋問の結果を総合すると、原告秀之の症状は事故以来常に重篤であり、病院側では一応完全看護の態勢になつているものの、重態の患者にとつては必ずしも十分でないこともあつて、原告龍司、同照子が交替で付添看護に当つており、その必要性があつたものと認めることができる。

本件事故発生日である昭和五二年九月二八日から原告秀之が症状固定の診断を受けた昭和五五年七月一七日まで一、〇二四日間(それ以降の分は将来の付添費として判断する。)の近親者の付添看護費としては、一日当り金二、五〇〇円を相当とするから、右期間で合計金二五六万円が付添看護費の損害として認められる。

3  入院雑費

原告秀之の前記一、〇二四日の入院期間中の入院雑費としては(それ以降の分は後記する将来の付添費等に含めて判断する。)、一日当り金七〇〇円を下らない割合の出費を要したものと推認するのを相当とするから、右期間で合計金七一万六、八〇〇円が入院雑費の損害として認められる。

4  将来の付添看護料等

前記四認定の原告秀之の傷害の部位・程度に、原告龍司本人尋問の結果によると、原告秀之は、現在も北里大学病院において、いわゆる植物人間と同様の状態で入院を継続中であり、重度意識障害及び四肢の完全麻痺の回復する可能性は殆んどないことが認められる。

したがつて、原告秀之は、前記症状固定日(一七歳)以降も終生他人の介護を必要とするものであるから、原告秀之の症状固定日以降の余命を五五年とし、一日当りの介護料として金四、〇〇〇円、入院中及び将来の退院後を問わず一日当りの諸雑費として金一、〇〇〇円の計金五、〇〇〇円の出費を免れないものと推認して、将来の付添看護料等を算定すると、症状固定時における現価は、次の計算式のとおり金三、四〇〇万五、九五五円となる。

計算式 5,000円×365日×18.6334(ライプニツツ係数)=3,400万5,955円

なお、原告ら主張の将来の治療費については、現在の治療費が全面的に神奈川県ないしは横浜市の公的補助の対象になつていることが、原告龍司本人尋問の結果によつて認められるから、将来の付添看護料等の損害の中には含めないことにする。

5  逸失利益

前記認定の原告秀之の後遺障害の程度からすると、原告秀之は、将来にわたり労働能力を一〇〇パーセント喪失したことが明らかであるから、一八歳から六七歳までの四九年間稼働するものとして、昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の平均年間給与額金三六三万三、四〇〇円を基礎に、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、逸失利益を算定すると、症状固定時における現価は、次の計算式のとおり金六、二八七万〇、九〇〇円となる。

計算式 363万3,400円×(18.2559-0.9523)=6,287万0,900円

6  慰謝料

(一)  本件事故の態様、傷害の部位・程度、後遺障害の内容、原告秀之の年齢、本件事故日、その他諸般の事情を考慮すると、原告秀之の慰謝料としては、金一、五〇〇万円をもつて相当と認める。

(二)  原告龍司本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告龍司、同照子は、原告秀之の両親であり、唯一の子供である原告秀之の受傷と後遺症により、同原告が死亡した場合にも勝るとも劣らない極めて大きい精神的打撃を受けていることが認められる。したがつて、原告龍司、同照子にも本件事故による固有の慰謝料請求権を認めるのが相当であり、右原告両名の慰謝料としては、それぞれ金三〇〇万円をもつて相当と認める。

7  過失相殺

以上1ないし6のとおり、原告秀之の損害額は金一億二、七四八万〇、六三九円、原告龍司、同照子の損害額は各金三〇〇万円になるところ、本件においては、前記のとおり一五パーセントの過失相殺をすべきであるから、そうすると、原告秀之の損害額は金一億〇、八三五万八、五四三円、原告龍司、同照子の損害額は各金二五五万円となる。

8  損害のてん補

原告秀之が加害車両の自賠責保険及び任意保険から、損害のてん補としてその主張の金額の支払を受けていることは、当事者間に争いがない。

被告松本の右保険給付以外の弁済の抗弁について判断するに、抗弁2(三)の事実については、当事者間に争いがないが、この金一〇万円は原告秀之が既に損害のてん補として控除している金一〇万円と一致するものである。

同2(一)の事実については、成立に争いのない甲第二五号証、乙第三号証の二及び弁論の全趣旨によれば、昭和五三年五月二日の時点で、同日までに被告松本が支払つた金額のうち、医療費に充当するものを除き、残金八〇万円を原告龍司、同照子の交通費、生活補償及び雑費の一部にあてることが約され、その旨の領収証が発行されたことが認められる。してみると、昭和五三年五月二日に金八〇万円の授受があつたわけではないが、右の支払名目からして、右金八〇万円は被告松本が保険から回収し得たものではなく、自己負担で支払つたものと認めることができる。

同2(二)の事実については、これにそう被告松本本人尋問の結果があるが、他にこれを証する書面があるわけではなく、右証拠のみから右事実を認めることは困難であるから、この点の主張は採用しない。

してみれば、原告秀之の損害てん補額合計は金二、六六四万五、一三二円になるから、これを控除した原告秀之の残損害額は金八、一七一万三、四一一円となる。

9  弁護士費用

被告らが任意に前記損害額の支払をしないため、原告秀之が原告ら訴訟代理人弁護士に本訴の提起、遂行を委任したことは、当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易、訴訟の経過、前記認容額、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係ある弁護士費用としては、金四〇〇万円を相当と認める。

六  以上のとおりであるから、被告らは、原告秀之に対し、金八、五七一万三、四一一円及び内金八、一七一万三、四一一円に対する本件事故発生日である昭和五二年九月二八日から、内金四〇〇万円(弁護士費用)に対する本訴状送達の後であることが記録上明らかな昭和五七年四月二七日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、原告龍司、同照子のそれぞれに対し、各金二五五万円及びこれに対する本件事故発生日である昭和五二年九月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よつて、原告らの被告らに対する本訴請求は右の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないのでいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田聿弘)

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